紫電改のタカ

紫電改のタカ

Release date 1963. 06

「死にたくない おれだって死にたくないさ」
「みんな自分の祖国のために
必死になって戦ってるんだ」

あらすじ

第二次世界大戦末期の昭和19年夏、台湾南部にある高雄基地、名機「紫電」で編成された七〇一飛行隊に、少年飛行兵・滝城太郎がやってきた。戦争とは何か?何のために戦うのか?生と死の狭間で苦悩する少年飛行兵の青春!!

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みどころ

みどころ1

不遇の戦闘機「紫電改」を描く

戦争を描いた様々な作品のなかで、最も登場回数が多く、花形の戦闘機と言えばやはり「ゼロ戦」でしょう。本作が連載され、戦記ものが流行していた1960年代でも一番人気はやはり「ゼロ戦」でした。しかし本作では、第二次世界大戦末期に活躍した戦闘機「紫電改」が主人公の乗る機体として描かれます。それは、すばらしい性能を持ちながら「投入時期が遅かったがゆえに戦況を変えるまでは至らなかった」という物語性を背負う「不遇の名機」と称されている戦闘機です。

本作が描かれた当時も多くの戦記ものが刊行され、そのなかではまるでスポーツ選手のように格好いい戦闘機乗りのヒーローが描かれていました。そのような状況の中でちばてつやが戦記ものを描くと決めたときに「安易なヒーローものは描きたくない」「これでは戦争は格好いいと思い込んでしまう」という思いが沸きあがりました。結果、名声をほしいままにしていた「ゼロ戦」に相対する選択として「紫電改」が選ばれたのではないでしょうか。

「紫電改」という不遇の戦闘機が選ばれている選択にこそ、ちばてつやの心意気と、本作品の立ち位置が如実に表れており、多くの戦記ものと一線を画す、大きな魅力になっています。

みどころ2

戦地で心を通わせるライバルたち

戦闘機同士の戦いが描かれる本作では、印象的な敵も出てきます。そのなかには「ライバル」と言っても過言ではない関係性の敵もおり、幾度となく手に汗にぎる空中戦をくり広げます。戦闘機のビジュアルも真っ黒だったりトラ模様だったり、彼らのライバルとしての存在感は抜群です。

主人公の滝城太郎は、そんなライバルたちに対して徹底して「良い部分は良い」というスタンスを貫き続けます。直前に味方の戦闘機を何機も撃ち落されていたとしても、その操縦の腕に対しては賞賛をおくります。墜落しても相手が死ななかったときにはそれを喜びます。殺してしまえと盛りあがる周りに流されることなく、捕虜として丁重にあつかい手当もします。捕虜のなかに家族がいると訴えられ、ひと目だけ、顔を見ることを黙認することもあります。

主人公が敵味方の区別なく平等なスタンスを取っていることで、ライバルはただの「敵対国の戦闘機」ではなく、血の通った「ひとりの人間」として描き出されていきます。その結果、彼らとの命をかけた空中戦はどこか遠い異国で行われてる他人事ではなく、家族や、待つ人のいるそれぞれの生活を持った普通の人間同士の争いとしての深みをかもしだしているのです。

みどころ3

エンタメで終わらない戦争の悲惨さ・恐ろしさ

戦闘機同士の空中戦にハラハラし、奇想天外な場面には驚かされ、幾度となく生死の境をくぐりぬける様にはワクワクさせられます。こうしたエンタメとしての楽しさを豊富にもちながらも、『紫電改のタカ』の特に後半では戦争の悲惨さ、恐ろしさが描かれていきます。

敵国のライバルには日本軍によって殺された家族がいる。主人公のまわりにも死んでいった戦友が何人もいる。いまも自らの身を案じてくれる家族や友人がいる。そんな中でも命令があれば、戦闘機に飛びのり、命を危険にさらし、敵に向かって銃口を向けにいかなければなりません。ちっぽけな自らの命だってきっと国のためになるはず。そう「信じようと努力しながら」出撃していくのです。

いくら自分の気持ちに迷いが生まれたところで、命令に逆らうことなどできません。歯を食いしばり、割り切れない感情を押し殺し、訪れることのないだろう明るい未来を語る主人公の姿からは、言いようのない寂しさがあふれています。そこには感情をさらけ出して泣き叫んだり、真っ向から反抗したりすることの何倍もの無念さがあふれており、戦争の無情さを感じずにはいられません。

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