ハチのす大将

ハチのす大将

Release date 1963. 01

あらすじ

父の遺志を継ぎながら、町の人たちを治療していく医師の大介。「ハチのす大将」と呼ばれる彼が無償で医療を提供する優しさ、“みんなのために”とバイクレースに奮闘する熱血漢ぶりが魅力のヒューマンドラマです。

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みどころ

みどころ1

戦後復興期のノスタルジックな魅力

舞台は昭和38年(1963年)──本作は、戦後復興期の貧しい下町をモデルに、狭い路地や木造長屋などの懐かしさを感じられるシーンが満載です。令和の今だからこそ、昭和の下町描写や人々のつながりが強く感じられるのではないでしょうか。

大介を中心に、貧しいながらも互いを支え合う住人たち。町の貧民たちに無償で医療を提供する大介の父や、大介を心配して病院まで駆けつける子どもたちの姿に、厚い人情を感じるでしょう。火事で町が焼け落ちたあともみんなで再建を誓い、力強く生きていく姿に元気づけられます。

さまざまな困難が次々と襲い掛かっても、大介をはじめとする町の人々は決して諦めません。彼らが逆境を乗り越える姿からは、読者の我々も前向きなエネルギーが得られるはずです。現代の地域コミュニティに薄れつつある絆が、人と人のほほえましい関係性が、ぎゅっと集約されています。こうした描写がストーリーの感情的な核となり、繰り返し読みたくなる魅力になっています。

みどころ2

真っすぐ必死に“正義”に徹する人々

ハチのす大将は、それぞれの“正義”が交差する物語です。
責任感の強さゆえに融通が利かず、人の言うことを聞かない大介。人のために、村のためにと無償診療を続けた結果、コレラをまん延させないため村に火をつけた大介の父。病気でピアニストの道を断たれた兄をラクにするため、薬を注射した看護師。愛する娘のため、他人を蹴落としてでもレースで賞金を稼ごうとする“死神”。開発で町の人を追い出そうとしつつ、たった一人のドラ息子を「助けてくれ」と涙する区長──。

すべて、それぞれが“正義”を貫こうとした結果です。これらは、決して単なる創作ではありません。日常的に起こる事故や事件の中にはこうした“正義”によるものが少なくないからです。

本作では、正義を貫くことの美しさ・難しさがありありと描かれています。大介たちの行動は時に法や倫理を逸脱し、時に誰かを傷つけることもありました。しかし、異なる正義がぶつかるときにどうするか。対話と共感で解決を模索する姿勢や、「相手の正義を理解すること」の重要性を教えてくれているのかもしれません。

みどころ3

昭和の風景を通じた現代へのメッセージ

医療ドラマから一転、バイクレースのアクションが加わる異色の作品である本作。エンジン音が聞こえてきそうな疾走感と、ライバル・死神との対決が緊張を高め、命がけの走りが正義の闘いを象徴します。細部まで描き込まれた緊迫の医療シーン、ダイナミックな描写が魅力のバイクレース、物語を彩る表情豊かなキャラクターたち。ちばてつやの多才さが示される本作は、ページをめくるたびに惹き込まれていくはずです。

令和の今読む『ハチのす大将』は、現代のさまざまな問題につながっていると言えるでしょう。たとえば、行政の冷遇に対する大介たちの抵抗は、福祉削減や都市再開発問題を思い起こさせ、貧困層の感染症はコロナ禍で生じた格差や医療アクセスの重要性を再認識させます。限られた資源の中で懸命に命を救う大介や父の姿は、現代の医療崩壊問題を予見しているようです。

そんな逆境の中でも、父親の遺志を継いで「人のために」動く大介。その成長が静かな感動を呼び、ページをめくるたびに感情が積み重なっていくようです。必死に人を助け、自分にできる研究を続けてきた大介に待っていたのは──。
戦後、希望を持ち続けながら奮闘する人々の姿。本作は単なる懐古ではなく、未来志向への教訓として輝きを放つ、多世代におすすめの一作です。

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