おれは鉄兵

おれは鉄兵

Release date 1973. 08

「いでやあああ〜〜〜っ」
「さあおれたちの発掘現場から盗み出した
埋蔵金をどこへかくしたっ」

あらすじ

鉄兵は人里離れた山の中で父親と二人暮らし。父親は埋蔵金発掘に人生をかけ、鉄兵と二人で今日も山を掘り返す。鉄兵は山の中で自然とたわむれ、気ままな生活を送っていた。ところがある日、落盤事故が起きて……

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みどころ

みどころ1

どこまでも破天荒な主人公

本作の主人公、上杉鉄兵の勝利への執念と手段の選ばなさには目を見張ります。体力を回復するためや作戦を立てるため、防具のヒモがゆるんだといって時間稼ぎをしたことは数知れず。試合前に休息をとっているライバルに、秘密の特訓の内容を聞きに行って妨害したり、反則すれすれの剣技を使って相手にダメージを与えたり、わたしたちが頭に思い描く「清廉潔白な主人公」のイメージとは程遠い姿です。

そこにあるのは「野生児を描きたい」というちばてつやの強い思いです。1970年代当時の子供たちが、友達と外で遊ばなくなり、塾や習い事に行ってしまう姿を見て、そんなことで良いのだろうか?という疑問を持ったことが鉄兵というキャラクターの造形につながっています。

鉄兵のがむしゃらな勢いと熱意に最初は気圧されていた周囲のキャラクターたちも、いつしか絆を深めていき、鉄兵を後押しをするようになります。それは読者である私たちも同じです。鼻もちならない部分はありつつも、作品を読み進めていくと自然と鉄兵をを応援したい気持ちが高まっていきます。そこには現代の私たちが忘れがちな、「気負わず飾らないコミュニケーション」が描かれているのではないでしょうか。

みどころ2

先のまったく読めない展開

「おれは鉄兵」は剣道マンガですが、肝心の剣道シーンは単行本第1巻も終わりがけになってからでしか出てきません。それも養護施設で時間をつぶす間に「チャンバラでもしてみないか?」との提案をうけやってみた程度。昨今のマンガではまず考えられないどっしりと構えた展開で、もはや横綱相撲といっても良いでしょう。

その後も剣道に打ち込んでいく鉄兵の姿が描かれていくものの、作品を通してみれば、時にはまるで不良マンガのようにケンカをしたり、時には埋蔵金を探しにいったり、単なる「剣道マンガ」の枠に収まらない、「先の読めなさ」が作品の魅力となっています。剣道のためならまだしも、酒と女に目がくらみ、自ら編入試験を受け学校を変える「スポーツマンガ」はこの作品くらいではないでしょうか。

作中の剣道の試合においても「先の展開の読めない展開が次々と描かれていきます。相手はライバルの様に描かれているのだから、この試合は負けるんじゃないか?この流れならきっと勝つだろう。そういった読者の予想を軽く飛び越えてくるのです。この展開の読めなさは、勝つか負けるかの二択だけではない、スポーツを通して描かれる表現の可能性を私たちに提示してくれ、物語の最後まで私たちをワクワクさせてくれます。

みどころ3

リアルにとらわれない大胆さ

本作には常識にとらわれない突飛な発想が満載です。捕まった警察署でダイナマイトを爆破し混乱に乗じて逃げだしたり、薙刀で襲ってくる実の祖母と包丁で戦ったりもします。そんな自由で豪快な発想は剣道のなかでも描かれています。

剣道をはじめたばかりで、ろくに基礎もできていない中学生の少年が、いかに運動神経と観察眼が優れているからといっても、高校生をばったばったとなぎ倒すのは現実の世界では相当難しいでしょう。でも、それを可能にするのが鉄兵なのです。また、鉄兵は木につるした無数の棒に打ちこむなど、オリジナリティあふれる練習にばかり注力しますし、「風車」や「木の葉落とし」など出てくる剣道の技も、実際に剣道をしている人からしたらありえない技かもしれません。しかしそれこそが、ちばてつやの狙いなのです。

あまり知りすぎてしまうと逆に奇想天外な発想が生まれなくなってしまう。そう考え、つきつめて深い知識を収集することをせず、あえてラフな状態で描くように努めていたことが、本作をを思いもつかない少年マンガらしい魅力あふれる作品にしあげています。鉄兵の頭身が、作品初期と比べると後半では大きく下がっているのも、そんなマンガ的な魅力を追求し続けたゆえの進化といってもいいでしょう。

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