ユカをよぶ海

ユカをよぶ海

Release date 1959. 06

あらすじ

ある日、バスにぶら下がって女の子がやって来た。名前はユカ。フランスに渡った画家のお父さんの帰りを待つために、漁村のはずれにある洋館に戻ってきたのだ。おてんばで負けず嫌いのユカは男の子たちのいじめもなんのその。親切な牧村先生と一緒に、お父さんの行方をさがし始めるが……!?どんな災難にもへこたれない、気高く、けなげにお父さんを待ち続ける少女・ユカの波乱万丈物語!!

父の帰りを待ちながら、ガキ大将やいじめっ子たちとの絆を深めていくユカ。当時のヒロインは健気で涙をこらえる女の子が主流でしたが、やられっぱなしの彼女ではありません。マンガ家デビューを果たして間もないちばてつや初期の名作を、ぜひマンガ本編でお楽しみください。

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みどころ

みどころ1

人と人はいつかわかり合える

両親がいない不運な境遇と、村人からの誤解で冷たくされるユカ。養護施設を抜け出し、無賃乗車をしながら単身で生家に戻る彼女の目的は、フランスにいるたった一人の肉親であるお父さんでした。孤独の中、ぼろぼろの洋館でただひたすらにお父さんの帰りを待つユカ。そんな彼女を「浮浪児」だとバカにする村の子どもたちがユカの大切な額縁を割ってしまい、完全に決別してしまいます。

何度も周りとの関係改善を諦め、「学校に行きたくない」と言うユカ。しかし、彼女を支える牧村先生の説得もあり、辛抱強く登校します。そして、やっとできた“はじめてのお友だち”は、なんとユカをいじめていたガキ大将の川上でした。

ひょんなことで知り合ったお屋敷の姉弟とも、冷ややかな目を向けていた村人や子どもたちとも、ユカをはじめとする海っ子と敵対していた山っ子とも、徐々に距離を縮めていきます。取りつくろったり嘘をついたりせず、ありのままの自分で真っすぐに接し続けていれば、人と人はいつかわかり合えることをユカが教えてくれるようです。

みどころ2

主人公に負けない魅力的な脇役たち

孤独だったユカですが、決して一人ぼっちではありません。気づけばいつも誰かがそばにいて、見守ってくれています。学校に行くよう諭し、私財を投げうってでも全力でサポートしてくれる牧村先生、いじめたことを謝ってくれたあと、クラスで一番の理解者になったクラスメイトの川上、困ったタイミングで助けてくれる黒いワイシャツのおじさん、お父さんの手術費を援助してくれる山田先生、ユカを姉のように慕うアーぼう、子猫のチロ。みんな、彼女に惹かれ、親身に寄り添います。

「ユカにできることなら、なんでもしてあげたくなるわ」
「でもうれしいわ、ユカのことわかってくれて」
「おじさん、アベルちゃんをあまりいじめないで」

自身はひどい仕打ちを受けても、人のために優しく言葉を紡ぎ行動し続けるユカと、彼女の芯の強さに惹かれていく周囲。そんな本作を彩る名脇役たちは、ユカ親子に「真実」を告げられない優しさを持った人ばかり──。登場人物みんなの優しさが、やがて迎える静かで穏やかなラストシーンをより貴い場面へと深化させます。

みどころ3

諦めず「希望」を持ち続ける大切さ

いじめられても、雨にうたれても、大切な人がいなくなっても、ユカは決して諦めません。そうして希望を持ち続けたユカに、ついに念願の時間がやってきました。飯岡にある海の見えるアトリエで、フランスから帰ってきた絵描きのお父さんと二人で過ごす日々です。彼女が見続けた夢は、現実になりました。残念ながら、その日々は決して長く続くものではありませんでしたが、長い間離れ離れになっていた彼女たち親子にとって、かけがえのない時間となりました。

ユカに次から次へと降りかかる困難。それはかつて、作者・ちばてつや自らが体験した戦中戦後の困難を表しているかのようです。何度くじけそうになっても諦めないユカの姿には、「信じて行動し続ければ幸せは必ずやってくる」という前向きなメッセージが込められているのではないでしょうか。

苦しくても、つらくても、希望を捨てずに信じ続けること。心が折れてしまいそうになっても、大切な人とともに前を向き続けていればきっと自分にも幸せはやって来るのだと、多くの人が共鳴する普遍的作品です。親子の愛、友情──勇気と希望をもらえるユカの不屈の精神を、ぜひ目に焼き付けてください。

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