ユキの太陽

ユキの太陽

Release date 1963. 01

あらすじ

身元不明の孤児だったユキ。自由奔放で心の優しいユキの冒険を通じて描かれる家族の絆、彼女自身のルーツ、社会の厳しさ、そして希望──少女の冒険を通じて描かれる激動のヒューマンドラマをお楽しみください。

sale

1巻を購入する1巻を購入する

みどころ

みどころ1

少女・ユキの強さと、大きな孤独

本作の肝になるのが、ユキという少女の強さ。自身の境遇がわからない、孤児というバックグラウンドがある中で、決して大人しく押し黙っているわけではないのがユキです。思いついたら突っ走る、感情が高ぶれば手が出てしまう…そんな無意識な奔放さが、物語を次々に動かしていく原動力になっています。

どんなに周囲が止めても、自分の思いで突き進むユキ。偶然見かけた北海道の写真に強く惹かれ、養女に迎えてくれたおじさんとともに飛行機へ飛び乗ってしまいます。一見、無鉄砲でワガママですが、彼女は持ち前の好奇心と行動力で、物語を外の世界へと、そして自分のルーツ探しの旅へと押し出していきます。

一方で、破天荒さと対照的に映るのが、彼女の「孤独」です。無邪気な笑顔の裏には、誰にも打ち明けられない孤独と、自問自答する姿勢が常に併存しているようです。つらいとき、自分に言い聞かせるように「いまさらおとうさんもおかあさんもほしいなんて思わない」と、何度もつぶやくユキ。そんなユキが両親について、自身のルーツについて知ったあと、本当の母親と再会したとき。ママの胸に飛びつく早苗をうらやましそうに見る姿、照れながらママのもとへ進むいじらしい姿に、心をわしづかみにされる人も多いのではないでしょうか。

みどころ2

金と権力をめぐる社会問題、そして民族差別

東京と北海道を舞台にした本作には、ユキの成長を見守るだけでなく、ある種の社会ドラマ的要素も組み込まれています。1960年代、高度経済成長期にあった日本。戦後の復興を経て経済が急拡大する一方、都市への人口集中、地方の過疎化、そして“金と権力”をめぐる争いが社会問題化していた時期と言えます。
岩淵家が営む建設会社が、元役員の裏切りや買収によって揺さぶられる展開は、まさにこの時代にあったこと。岩淵家の倒産・家の差し押さえ・北海道への移住…それらはすべて「経済成長の裏で失われていくもの」を象徴しているかのようです。

また、本作では北海道で出会うアイヌの少年・竜太や、彫刻家・アカルパを通じ、アイヌの人々が抱えている偏見や差別もリアルに描かれています。小学校での差別発言、周囲の無理解──ユキがそれに憤り、友人をかばう姿には、ちばてつやの「人間の尊厳を守ろうとする思い」が込められているのではないでしょうか。

ちばてつやは、こうした社会的な問題を直接的な政治批判・差別批判ではなく、マンガに変換して訴求してきました。本作は、単なる少女の成長物語ではなく、戦後日本の社会問題をまっすぐに射抜いた社会ドラマでもあります。

みどころ3

「受け入れて進む」ことの大切さ

小学4年生のユキは、自分の過去・出自と真正面から向き合い、周囲との関係性や立場を再定義していきます。少女に一気に押し寄せた、ショッキングな事実。傷ついた心を抱えながら、自らの道を探し続ける姿勢。そこには「血縁がすべてではないこと」「家族とは何か」「信じること」「自分の人生を自ら選ぶ」ことの大切さが込められているのではないでしょうか。

人間の欲望と差別、ドロドロとした不正義の連鎖を目の当たりにしたユキ。しかし同時に、人が人を思う力や、その土地に根差した文化の尊厳を守ろうとすること、そして他者を理解しようとする温かさも見てきました。ユキはそのすべてを通して、誰もが時代の犠牲者でありながら、同時に新しい道を見出だせる存在なのだと気付いたのではないでしょうか。

瞬間的な決断や急な別れ、偶然の出会い。感情の波が大きく揺れ動く本作に、常に心を引っ張られていくことでしょう。社会の歪みと、希望の輪郭を同時に描き出すちばてつやの筆の深さを、ぜひマンガ本編でお楽しみください。

コミックス一覧