餓鬼

餓鬼

Release date 1970. 02

あらすじ

金に目がくらんだ大人の裏切り、あふれ出る人間の欲──本作は幼い少年・立太が過酷な運命に巻き込まれていくハードコアな人間ドラマです。人間の醜態がもたらす「救いのない結末」は決して他人事ではなく、誰でもそうなり得るリアリティが恐ろしい衝撃作。

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みどころ

みどころ1

金と欲が人間を壊す過程

亡き両親の牧場にいたベコ(牛)を誰よりも大事にし、愛していた立太。しかし、村人たちの欲にさらされ、大人の汚さに絶望してしまいます。川に落としてしまった金を、死に物狂いでかき集める村人の姿。学校の先生までもが、授業を放り出してさもしい姿を晒しました。自身が持つ金でまわりの人々が醜い姿になってしまう光景を目の当たりにした立太は、少しずつ、少しずつ心を歪ませていきます。

天涯孤独ながらも、飼い犬のチョビやベコと一緒に村を駆け回りながら過ごしていた立太は、やがて人に喧嘩をふっかけ、警察の自転車やリヤカーを盗む青年になってしまいました。店のゴミ箱から残飯を盗んで食べ、路上で物乞いをするようになりました。ついには、人を殺めてしまうことに──。

小さな立太には救済者がいません。そして、金によって突然狂暴になったわけでもありません。長年積み重なった怒り、軽蔑、孤独が、金という導火線によって爆発した結果です。誰かを救う可能性を持ちながら、同時に全員を壊した金と、人間の欲望がこれでもかというほど前面に押し出されています。人間の“底”を描き、読む側の倫理観や感情をえぐってくる本作は、最後まで逃げずに向き合うべき必読書です。

みどころ2

天涯孤独の立太と、愛

幼なじみの梅子の言うとおり、村を出ようとした立太とチョビ。しかし、「金を持って逃げている」と誤解した村人たちが追いかけます。ついに崖が崩れ、川へ落ちてしまった立太。最後の最後まで立太を助けようと川へ入るチョビと、金の心配しかしていない村人たち。その対比が、悲しく、醜く、餓鬼道に堕ちる人間の浅ましさを表現しています。

立太に暴力をふるわれても、彼が入院しても、絶対にそばを離れないチョビ。銃で撃たれた立太を見て必死に警官を威嚇するチョビも、残念ながら銃弾を浴びてしまいます。そんな光景を目の当たりにした立太は驚き、悲しみの表情をチョビに向けます。それは誰よりも人間らしい、愛を知っている表情です。
そして、立太の暴力性も弱さも理解し、それでも「あんたがすきなの」と伝える梅子。墓場のように変わり果てた子沢村に立太を連れて帰る使命感、責任感──それは、愛があるからこその行動です。

両親亡き後、唯一の伴侶としてともに過ごしたチョビと、立太を最後まで見捨てなかった梅子。本作唯一の「愛」として、わずかながらに希望の光をもたらしてくれる存在と言えるでしょう。

みどころ3

『餓鬼』に込められた意味

すべての記憶を取り戻し、故郷・子沢村に帰る立太と梅子。そこにいたのは、かつての村人たちではない『餓鬼』の姿。金に目がくらみ、仕事もせず、親や兄弟さえも信じられなくなった結果、何人もの仲間を殺めてしまった人々が待っていました。

「餓鬼」とは、仏教の世界観である六道のひとつ。飢えと渇きに苦しみ、決して満たされない鬼を指します。金の亡者となった村人たちは、目が血走り、顔が歪み、欲望をむき出しに…もはや人ではない「餓えた鬼」に変わりました。村の中で異物として扱われてきた立太もまた、人を信じられなくなり、乞食生活を経て盗みや殺人を犯す餓鬼となってしまったのかもしれません。

閉鎖的な村社会で、金探しが人々をお互いに信じられなくし、人道から外れた餓鬼道に堕とします。作者・ちばてつやは、自身の戦後体験から人間の暗部を描き、金がもたらす陰謀と暴力を生々しく表現。醜さの極致で、かつての仲間が命をなくした状態で転がる光景は、読者の心に残ります。金・貧困・差別・人間の本性を容赦なく描いた本作は、あまりにも残酷で、陰影の濃い一作です。
静かで凄惨なラストを、どうか目に焼き付けてください──。

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