ママのバイオリン

ママのバイオリン

Release date 1958. 06

あらすじ

ママとふたり、貧しいながらも幸せな生活を送っていたまなみ。しかし、ある雨の降る夜にまなみの運命は一変してしまった!!謎の五百万が入ったふろしきを持ち帰ったママは結核に倒れ、その後病院からこつぜんと姿を消してしまったのだ。ママから貰ったバイオリンを抱いて悲しみに暮れるまなみに、その後も数々の災難が降りかかる。どんな困難にもめげずバイオリニストになることを夢見るまなみの、波乱の物語!!

家族の死、舞台での演奏──出会いと別れを繰り返しながら、激動の日々を過ごすまなみ。彼女のそばには、いつもママのバイオリンがありました。ちばてつや連載2作目、未来への希望を持ち続けて一歩ずつ前進するまなみの姿を、ぜひマンガ本編でお楽しみください。

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みどころ

みどころ1

波乱万丈なストーリー展開

戸棚の大金から始まった、波乱万丈な展開。ママの記憶喪失、列車での誘拐、スリの窃盗団──どうして、まなみには次から次へと困難が降りかかってくるのでしょうか。

貧しくも、母子二人で幸せに暮らしていた彼女たち。そんな日常が突然失われ、離ればなれになった二人にはそれぞれ試練が待ちかまえていました。記憶喪失になったママは、病気と闘いながら、自分が誰なのかもわからないまま働き続け、とうとう倒れてしまいます。ママを探して悪者から逃げ惑うまなみは、奇跡的な出会いを経てバイオリンの先生と出会い、ママとの再会を果たします。希望が見えたまなみの前に待ち受けていたのは、誰よりも頼りにしていた水島のおにいさんとの別れ、そして、一度は九死に一生を得た最愛のママとの別れでした──。

どれだけ涙を流しても、どれだけ困難が降りかかっても、まなみは決して「悲劇のヒロイン」で終わりません。彼女の瞳には、逆境を乗り越える不屈の精神が感じられます。それはさながら、戦後の高度成長期にさしかかる日本そのもの。結核に苦しむ人、そして生きていくためにスリの集団に入る孤児も、当時あった“現実”が色濃く反映されているのではないでしょうか。

みどころ2

意思をもつキャラクターたち

唯一無二の画力を誇るちばてつや。デビュー間もない本作でも、その実力はすでに開花しています。たとえば、静養中のママと一緒に過ごす河原のシーン。石ころの一粒一粒、シラカバの模様、花畑で咲き誇るオシロイバナやコスモスの花びら一枚一枚の描き込みに、思わず目を奪われます。コンサートホールでの背景、割れんばかりの拍手、流れるような演奏と音色。まるで、そのまま作中の拍手の音や『アベ・マリア』『ベニスの謝肉祭』が聞こえてくるようです。

バイオリンやピアノを弾く繊細な指使い、真剣なまなみの表情、彼女のやわらかな髪や大きな瞳。少女マンガらしい丁寧なタッチで描かれた、情感豊かな絵柄に誰もが魅了されるでしょう。

また、その画力はキャラクター造形にも活かされています。まなみや水島青年はもちろん、どんな脇役でも、そのキャラクターの「人生」や背景が感じられ、惹き込まれること間違いなし。単なるストーリーの駒ではなく、一人ひとりに血の通った存在感を持たせるのは、キャラクター作りの名手・ちばてつやならではです。

みどころ3

バイオリンがつなぐ縁と希望

まなみのすべてだった、ママの死。その日から、一緒に過ごしたあの花畑も何もかもが真っ暗になってしまいました。夢でもいい、「まなみ」と呼んでくれなくてもいい。必死に母の愛情を求める彼女の姿に、涙せずにはいられません。生きる気力を失ったまなみですが、彼女の腕にはしっかりとママのバイオリンが抱かれています。

橋の下でも、公園でも、まなみが奏でるバイオリンの音色は、いつも人に元気をもたらしてきました。そして、バイオリンがつないでくれた“縁”もたくさん。危うく人の手に渡るところだったバイオリンは、世界的音楽家との出会いを運んできただけでなく、かつての友だち・マリアンヌとの再会も実現させてくれました。一度は手放したバイオリン。ですが、まなみにとって、そしてこの作品にとって、何よりも重要な役割を担っている楽器と言えるでしょう。

まなみの才能を見出した雪村先生、ピンチのときいつも助けてくれる水原のおにいさん、ずっとそばにいてくれた犬のドリ、そして、“金精峠のママ”。もう、まなみは一人ではありません。ママが遺したバイオリンで、「バイオリニストになってね」というママの望みを叶えました。まなみは何があっても、ママのバイオリンとともに悲しみや苦しみを乗り越えていくでしょう──。

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