少年よラケットを抱け

少年よラケットを抱け

Release date 1992. 05

あらすじ

沖縄から九州へ、船や電車を乗り継いでやってきたのにボクシング部は休部──不本意ながらもスタートした大志のテニス道。豪快で型破り、礼儀やルールに縛られない大志と仲間の成長物語を、漫画本編でお楽しみください。

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みどころ

みどころ1

王道と異色が入り混じるストーリー展開

ボクシング×テニスという、異色のスポーツ融合物語。ボクシングのフットワークや闘争本能をテニスに応用しようとする大志のスタイルは、これまでのテニス漫画にはない型破りな面白さを演出しています。ボクシングで培われた一撃の重さや接近戦の勘が、テニスコートという異質なフィールドでどう化学反応を起こしていくのか、必見です。

大志は、決してテニスをやりたかったわけではありません。目的はあくまでボクシング部の再建であり、テニス部主将・マコトとの対戦で敗北を喫したため、仕方なくテニスを始めました。しかし、これまでボクシングで負けなしだった大志は、利き手を使わないマコトに完敗します。大志が初めて味わう強烈な敗北感と屈辱から始まるストーリー、そしてライバルとの実力差を努力と過去の経験で埋めていくというプロセスは、スポーツ漫画における王道の展開です。

本作は「テニスがやりたくて仕方ない少年」の成長期ではありません。ボクシング命の荒くれ物がテニスの魅力にどんどん引き込まれ、部員とともにステップアップしていく作品です。きっと、読者は大志と一緒に「テニスって、こんなにすごいスポーツなのか」と感じるでしょう。

みどころ2

対極的な二人による熱い化学反応

ボクシングで培ったパワフルな身体能力と直感を武器にコートを駆け回る大志と、理知的で洗練されたテニスをする技巧派のマコト。対極的な二人の存在が、物語の大きなエッセンスとなっています。最初の出会いで大志に圧倒的な敗北を突き付けたマコトは、いわば大志が乗り越えるべき「大きな壁」そのものでした。

しかし、二人の関係は単なるライバルでは終わりません。大志がまっすぐマコトや対戦相手にぶつかっていく姿勢は、やがて完璧主義だったマコトの凝り固まった心を揺さぶり、さらには周囲の部員たちをも変えていきます。大志とマコトという、まるで水と油のような個性がぶつかり合うことで周囲の空気は激変し、バラバラだったメンバーが“勝利”という一つの目標に向かって団結していくのです。

“才能ある静・燃え盛る動”という二極のキャラクター造形は、まるで『あしたのジョー』のジョーと力石のような、ライバルでもあり同志でもある関係性です。同じコートに立つ緊張感と高揚感を経て、丁寧に二人の友情が育まれていくようすは、リアルな人間関係が垣間見えます。

みどころ3

部員たちの成長によって描かれる青春ドラマ

本作は単なる大志の独り舞台ではありません。当初は女子部員にコートを占領され、肩身の狭い思いをしていた男子テニス部員たちが、大志という“異分子”の登場によって生活が大きく変わっていく過程も見どころです。自分の殻を破れず萎縮していた部員たちが、大志の実直でひたむきな姿に触発され、いつしか自らも勝利のために汗を流すようになっていきます。チームという組織がいかにして一つにまとまり、共に強くなっていくかという群集劇から最後まで目が離せません。

テニスという技術と戦術が重視されるスポーツにおいて、大志の泥臭い闘志や底知れぬ吸収力は、停滞していた部員たちの心に火をつける起爆剤となります。強大な壁にぶつかっても決して折れず、むしろ状況を楽しんでいくかのような彼のメンタリティは、今の世に必要なことなのかもしれません。

ちばてつや作品に通底する、弱者や不器用な人間に対する温かいまなざしも健在です。単純な試合での勝利だけでなく、対戦相手が背負っている事情、スポーツを通じた人間的な成長に焦点を当て、勝敗を超えたさわやかな読後感が生まれます。粗削りな大志の言動が、徐々に周囲の人々の心を解きほぐし、やがて彼ら自身も気づかなかった“可能性”を切り開いていく──そのようすは、巨匠が描き続けてきた人の輝きに満ちています。

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